2014年2月2日日曜日

個人的なユニクロ主義 柳井 正 (著), 糸井 重里 (著)

 糸井重里はまえがきの中で、これまでのビジネス本は「常識の書」か「娯楽の書」だったと分析している(ちなみに本書の出版は2001年。この本が出版される2ヶ月ほど前にD.アレンのGTD本が出版されている)。この分析は、ビジネス本というのは読まれても実際に実践されることが少ないという批判的な解釈から出てきたもののように思える。その視線が出版する側に向けられているのか読む側に向けられているのかは分かりづらいけど、「『(「チーズはどこへ消えた?」を引き合いに出して)あのくらい丁寧にしないと、ものごとって、ほんとうに伝えることはできにくいんだなあ』と、このごろ考えているんです。 (P17)」という一文からすると、理解能力(あるいは実践能力?)の低い読者に対して向けられているのかも知れない。

 本書は、実践につながる、つまり、読者の腑に落ちるような「なまもの」の話をユニクロの柳井社長から聞き出すというもの。結果として、数多くあるビジネス書とは違った印象の対談本になっているが、煎じ詰めていくと、「覚悟を決めるのが大事」ということが語られているだけ。そんなわけで、読後感としては肩透かしをくらった感じで(ページ数も少ない)、全体の1割をまえがきに割いて、本書の立ち位置を強調したりしてたのに、何だかなあ、と最初は思った。

 でも、そこで少し考えてみた。

 大量のビジネス本で方法論やらTipsやらが開陳されているが、それを実践に移せない最大の壁は何だろう?それは「他人事」ということになるのではないか。「他人事」とは、例えば柳井さんは自分にはマネのできない努力家だった、孫正義氏は若い時から頭がよくて自分なんかとは違う行動力を持っていた…。つまり、「あの人たちと自分は違う」と思考停止してしまうということなのではないか。そして、本書が伝えようとしているのは、そうではない、ということなのだ。
 だから本書では、将来の目的もなくダラダラと麻雀なんかをやって暇つぶしをしていた柳井さんや糸井さんの学生時代の話が妙な力点を持って語られているのだ(お二人は1歳違いの同世代)。昔から目的意識を持ってバリバリ合目的にやってたわけではない、自分たちと変わることのない、大勢の中の一人だったということからのスタートだということが強調されているのだ。そして組織論だとか交渉術、マネジメント論やマーケティング論などに言及するのではなく、それらの源泉は「この職業で一生やらないといけないという覚悟(P107)」から発しているだけだというのが、本書のコアなのだ。
 「覚悟してやりさえすれば、みんなけっこういい線いくんじゃないかと思いますけれどもね。(P107)」というのは、サラッと読むとテキトーな放言のように思えるが、これは柳井さんの、きっと本音なのだ。そして、このことは、糸井さんが同年7月に出版した「インターネット的(PHP新書)」で言及していた「立候補する」、つまり、大変になるのを「覚悟」の上で当事者として状況に関わっていく、ということと通じている。だからこそ、糸井さんはほぼ日ブックスのローンチタイトルをこの本にしたんじゃないかなと感じた。

 サラリと読めるんだけど、色々と能動的に考えるきっかけを与えてくれた本だった。

0 件のコメント:

コメントを投稿